分析はとてもクリエイティブな研究
私が所属する分析研究部は2021年に新設された部署であり、創薬から製剤に至るまで、各研究部門の分析機能を一手に担っています。まだ分析手法が確立されていないような初期段階の分子の分析を依頼されることも多く、分析手法の開発や分子機能の解析、クライテリア(品質の評価基準)の策定、製造プロセスの評価などを、時には数千にのぼるサンプルを測定しながら、一つひとつ明らかにしていきます。また、シリンジやオートインジェクターといった投与デバイスも分析対象であり、「対象年齢の方々が十分に扱えるか」といった評価なども行っています。
「分析」という仕事について、「定められた手法に則り淡々と結果を出していくもの」といった印象を抱く方もいるかもしれません。確かにその側面もありますが、分析はもっとクリエイティブで、探求すべきことが多岐にわたる研究色の強い仕事です。
中外製薬は、さまざまな機能を付与した抗体分子を強みとしています。独自の技術を用いて創り出された分子は、従来の分析法では安定的に評価できなくなるなど、想定外の結果をもたらすことも少なくありません。また、私が担当するバイオ医薬品は細胞を扱うため、そもそも反応を完全に予測することが難しく、分子自体に不均一性も多くはらんでいます。不確定な部分が多いからこそ、いかに分析法を確立し、エビデンスを積み上げ、品質を担保できるかといった点に研究としての面白みを感じています。
データに対して誠実に取り組む
分子を分析すれば、分析法に応じた形でアウトプットがなされます。ただ、そのアウトプットが必ずしも真実を示すとは限りません。例えば、抗体分子は非常に多くのアミノ酸から構成されており、分子一つの構造を解明することも容易ではないのです。違う分析法ではどのような結果が得られるか、環境による変動はどうか、他のデータと照らし合わせることでどのような解釈ができるのか……など、多面的な評価によって解像度を高めることが大切だと考えています。分析がなされなければ、誰も分子の持つ力に気づけません。限られた時間とリソースの中で現象を突き詰めること、そして、データに対して誠実に取り組むことが、医薬品を開発する研究者の矜持であるといえるでしょう。
現在は、バイオ医薬品を担当するマネジャーの一人として、メンバーのマネジメントを行っています。特定の技術分野に長けたメンバーが多く、一人が複数のプロジェクトを担うことも珍しくありません。分析が関わるステージは原薬から製剤、デバイスなど多岐にわたるため、それぞれにおいてロジックを精緻に組み立て、分析結果を評価することになります。一つの医薬品が承認されるまでの各プロセスに貢献できることに、分析という仕事の醍醐味を感じています。今後は、既存のプロジェクトを滞りなく進めるとともに、新たな分子の開発にも柔軟に対応できるような技術的基盤を整えるなど、技術面の向上にも注力していければと思います。
キャリアエピソード
若手時代
入社後は創薬研究部門に配属され、主に抗体や抗原などのタンパク質の分析を担当しました。今振り返れば、自分の好奇心の赴くままに実験や分析をさせてもらっていたと思います。一つの対象に対し、さまざまな分析法でアプローチできるのが楽しく、実験をして新しい発見があること自体にやりがいを見出していたように思います。また、当時は目の前のプロジェクトに役立てることしか考えていませんでしたが、薬理や安全性、動態といった他分野の研究員とコミュニケーションを図ることも多くあり、ここで得られた知見や経験は今のキャリアのベースになっていると感じています。
中堅時代
2013年から製薬研究部門に異動し、引き続き分析を担当するとともに、初めてグローバルの商用申請を担当しました。苦労したのは「正解がない」こと。申請資料の項目は決まっているのですが、申請対象の医薬品がその事項を満たしているかどうかを説明するには、自分たちのデータをもとにロジックやストーリーを固めなければならないのです。中外製薬オリジナルの技術を伝えるために、どの性質がキーになるのか、臨床結果と治験に使われた抗体プロファイルの関係性をどう説明するかなど、共同開発先であるロシュ社の担当者と議論を重ねながら、一つひとつ決めていきました。厳しい期限のなか、無事に承認まで進められたことは、私のキャリアにとっても大きな財産です。申請にあたっては、多面的な視点の大切さも実感することができました。
マネジャー時代
分析研究部の新設と同時にマネジャーの就任が決まったこともあり、就任前から組織再編に向けた動きが必要でした。新たに分析研究部にメンバーが異動しても、現在進行中のプロジェクトを止めるわけにはいきません。引き継ぎや移行をスムーズに進めるとともに、メンバーたちには「この組織再編の狙い」や「分析研究部が目指す地点」などをメッセージとして伝えることを心がけました。メンバー一人ひとりの力を束ね、分析研究部として成すべきことを追求できればと思います。
研究職を志す皆様へ
チームをマネジメントするうえで、メンバーから「やりたい」と言われたことは、できるだけ重視したいと考えています。一つの道を追求するのも素晴らしいことですが、新しいチャレンジに踏み出すことも同じくらい価値のあることだからです。研究職を目指す皆さんは、どうかこの先の人生においても、ご自身の価値観ややりがいに合ったチャレンジを継続できるような環境に身を置いてもらえたらと思います。
- 所属部署等は取材時のものです。