中外製薬

1 研究本部・トランスレーショナルリサーチ本部

臨床薬理
Clinical Pharmacology

最新の予測方法「バイオマーカー」を活用し、安全かつ効果の高い薬剤を迅速に市場に提供する

研究所で作り出された医薬品の候補化合物は、臨床試験で効果・安全性を立証して承認申請へとたどり着き、承認されると晴れて薬剤として世の中に出ていきます。しかし、研究段階では問題がなかったにも関わらず、臨床試験で効果が認められない、安全性が確保できないといった理由で薬剤にはならなかったケースは数多くあります。

原因は様々ですが、研究から臨床への外挿性、有効な患者さんの選択、適切な用法・用量の設定などに問題があると言われており、新医薬品を創製する際の生産性の低さの大きな原因となっています。これを受けてFDA(米国食品医薬品局)はホワイトペーパーの中で、近代的な臨床試験の実施、Modeling and Simulationの活用、バイオマーカーの利用といった解決方法を提案しています。(https://www.who.int/intellectualproperty/documents/en/FDAproposals.pdf

中外製薬の臨床薬理にはModeling and Simulation、バイオマーカー、臨床薬理試験、ヒトオルガノイドを用いた研究、これらに付随する測定機能が備わっています。そしてこれらの技術を、非臨床試験から臨床試験に至る様々な場面で生産性の低下を防ぐ手段として用いています。

先のFDAの提言を受けてMID3(Model Informed Drug Discovery and Development:モデルに基づいた医薬品開発)といった考え方が業界には広まりつつあり、これに対応すべく非臨床および臨床のそれぞれに対してmodeling and simulationを実施しています。また、バイオマーカーを戦略的に探索するため、文献情報だけではなく、研究所との協力、臨床試験サンプルによる検討、ビッグデータ活用などの多岐にわたる手段を用いています。

疾患との関連性が認められたバイオマーカー候補は,modelingや次相の臨床試験計画に反映するといった業務も行っています。これらを実現するには精度の高い定量法が必要であり、そのために最新の測定機器と自動化システムで多様な物質を測定する体制を整えています。それに加えて、非臨床から臨床試験の予測のためにin vitroによるオルガノイドでの可能性についても検討しています。

ここで述べたようなさまざまな技術は、適切なタイミングで適切に活用しないことには効率よく臨床試験を進めることができません。また、特殊な患者さんの集団に対しては臨床薬理試験で検証する必要もあり、臨床開発とはまた違った、サイエンスに基づいた高度な戦略性が要求されます。これらを統合的にコントロールし、各部門との調整を行うことも臨床薬理の機能として備わっています。

臨床薬理ではこれらの予測・解析を通して、効率的で失敗しない開発計画の策定に貢献しています。ただし、こうしたことを実現するためには多機能な臨床薬理だけの力では難しく、創薬研究から開発、薬事といった様々な部署との連携も欠かせないものとなっています。このように多くの部署と協力して、より有効で安全な医薬品を、効率的かつ迅速に患者さんの手元に届けられるよう努力しています。

Researcher's Voice

吉村 和晃Yoshimura-Kazuaki

薬学研究科 薬学専攻 修了
2017年入社

目的にかなう測定系を構築する研究。
最先端の実験環境や多様な組織との協働が魅力

現在の仕事・自身の役割は?

生体試料中の薬物濃度や抗薬物抗体、バイオマーカーを測定するための分析法を構築し、治験で得られた検体を用いて測定を行う測定管理に携わっています。私はバイオマーカーの新規測定系評価、測定系の開発および測定管理を担っています。

具体的にどのような研究を?

治験では患者層別化や開発薬の薬効・安全性を評価するために、ターゲット分子であるPDマーカーの他、標的部位の微小環境や免疫細胞の状態、組織中の遺伝子発現量など、さまざまなバイオマーカー測定を行います。社内外関係者のニーズに合わせ、自社で測定系開発を行うだけでなく、社外の測定施設で構築された最新の測定系についても調査し、事前検討を行うことよりその妥当性を評価しています。

やりがいやおもしろさは?

薬物濃度や抗薬物抗体の測定では測定法確立に関するガイドラインが存在するのに対し、バイオマーカー測定法については定められていないことも多く、プロジェクトの目的やニーズにかなう最適な測定系を構築する必要があります。また、適切な検体採取から保存条件、測定までの一連の流れを提案することはより精緻な治験データを取得することに繋がるため、やりがいのある業務だと感じています。

職場環境の特徴や魅力は?

液体クロマトグラフィー/質量分析(LC-MS/MS)やリガンド結合法(LBA法)を用いた最先端の実験環境が整っており、さまざまな薬物濃度や抗薬物抗体、PDマーカーの測定系が構築できることです。プロジェクトによっては他本部や外部施設と連携し、ノウハウを共有しながら測定法開発を進めることが多い点も魅力です。また、実験業務時は出社、デスクワーク時はテレワークと柔軟な働き方ができるのもいいですね。

将来の目標は?

バイオマーカーの測定系構築やサンプルロジスティクスには、まだ多くの課題があります。社内関係者との議論や、ロシュ社やジェネンテック社との協働を進め、より頑健なデータ取得のための体制づくりに貢献したいです。また、機械学習の応用やロボティクスによる業務効率化システムを構築し、より簡便に、かつ精度の高い測定データを提供できる環境を整えていきたいと考えています。

主な研究テーマ

  • 非臨床・臨床におけるmodeling and simulationを用いた薬物動態、薬効、安全性の解析および予測
  • 生体内物質、画像によるバイオマーカーの探索と非または低侵襲診断方法の検討
  • 臨床サンプルにおける薬物濃度およびバイオマーカーの定量法確立と測定
  • Modelingやヒトオルガノイドによる非臨床から臨床予測
  • 生理学的薬物速度論モデルに基づいた薬物相互作用の予測と臨床薬理試験による検証
  • ビッグデータに基づいた疾患時の生理学的パラメータの変動、および疾患の自然経過の検討

基盤となる技術

  • Model作成技術
    臨床試験結果に基づく母集団薬物動態model、古典的なPK/PD model、semi-mechanistic PK/PD model、Quantitative Systems Pharmacology model による有効性・安全性・薬物動態の関連性解析と予測
  • データ解析技術
    臨床試験データを対象とした一般薬物動態解析,曝露量-作用解析,ビッグデータを含めた統計学的検討およびそれを可能にするプログラミング
  • 生体試料分析技術
    LC/MSおよびELISA等による薬物濃度やバイオマーカーの微量定量法構築

研究機器・設備・施設

  • LC-MS/MSシステム(液体クロマトグラフ質量分析システム)

分析対象を物性・質量・分子構造の違いによって分離することが可能で、多用な夾雑成分を含む試料でも高感度に分析することができる。ルーチンLCMS測定として最上級の機器。

  • 超高感度オートELISAシステム

バイオマーカーなどのタンパク質を高感度に定量解析できるデジタルELISAシステム。従来のELISAと比べて1,000倍以上の高感度を有するだけでなく、複数項目の測定と自動化を実現している。

  • 自動ELISAシステム(リキッドハンドリングシステム)

試料中に含まれる抗体あるいは抗原の濃度を検出・定量する際に用いられるELISA法において、ルーチンな測定をオートメーションで行うことができる。