中外製薬

1 研究本部・トランスレーショナルリサーチ本部

創薬基盤技術開発
Discovery Technology Research

革新的な創薬を支える最先端の創薬基盤を開発する

疾患の原因となる標的分子を探索すること、それに作用する医薬品の種となる分子を取得すること、それを生体に投与可能な医薬品へと仕上げていくこと、様々な局面において創薬活動を支える基盤技術が必要になります。私たちはその技術力をトップレベルに高め、革新的な医薬品を生み出す源泉とすべく活動しています。

創薬標的分子の探索やPHCを目指したバイオマーカーの探索において、ゲノミクスやプロテオミクスなどのオミックス技術を駆使して、疾患状態や薬剤投与における遺伝子・タンパク質の量的・質的変化を捉えるデータを取得しています。遺伝子発現や遺伝子変異、クロマチン構造を含む各種ゲノムデータを取得するために次世代シークエンサー(NGS)を中心としたゲノミクス解析手法を構築しており、プロテオミクスではLC-MS/MS分析を中心としたタンパク発現・修飾・相互作用の高感度解析手法を構築しています。

公共の各種データに加えて、アカデミアとの共同研究のもとで臨床検体を用いた各種オミックスデータを取得し、バイオインフォマティクス解析により有用な情報を抽出し、さらに疾患の原因となる分子群や病態および薬物効果と連動して変化するバイオマーカー候補を探索します。構築した中外独自の統合データベースは、社内研究やアカデミアとの共同研究から見出した分子が病態とどのように関連するか評価する上で重要な情報源となります。

これらの技術で選定された創薬標的分子の妥当性を評価するためは、遺伝子発現制御を活用した細胞実験とともに、トップレベルの発生工学技術(遺伝子改変、ゲノム編集、生殖工学など)によって作出された遺伝子改変動物を用いた個体レベルでの評価も行います。このようにして探索された創薬標的分子に対して、疾患治療に求められる医薬品としてのプロファイルを考慮して、低分子、中分子やバイオ技術を活用した医薬品の創製が開始されます。

標的分子が特定された後にはそれに作用する活性化合物の取得が必要になります。低分子医薬品の創製は、世界トップレベルの約300万の合成化合物のライブラリーを対象としたHTSによるヒット化合物探索から始り、最新鋭のロボットとIT技術を組み合わせることで高速・高効率なスクリーニングを行います。また、最近では中外製薬が独自に作り上げた中分子ライブラリーを使い、低分子や抗体ではアクセスできなかった標的分子についても積極的に活性中分子の探索活動が行われています。

マルチモダリティ化した医薬品創製においては従来とは次元の異なる多種類の分子からのスクリーニングが求められており、ロボットによる効率化に加えてin vitro compartmentalization法等の超微細反応系や一細胞機能解析技術といった新規スクリーニング技術開発を進めています。

また、医薬品候補分子については、物性改善や動態制御を行うため、原薬形態の決定や初期製剤の処方設計を行い、必要に応じてDDS技術による候補化合物の価値最大化を試みます。

Researcher's Voice

丸山 徹Maruyama-Toru

先進理工学研究科生命医科学専攻 修了
2018年入社

創薬という社会的意義の大きい研究領域で
自らが成すべきことを考えられる

現在の仕事・自身の役割は?

バイオインフォマティクスという生物のデータを扱う分野を専門としています。患者さんや実験動物から取得した遺伝子・タンパク質・細胞等の大規模データを解析することで、疾患メカニズムの理解や創薬標的候補の探索を目指しています。

具体的にどのような研究を?

国立がん研究センター(NCC)との共同研究では、肺癌患者さんの手術検体から取得したゲノム・遺伝子発現・細胞を解析して、創薬標的となりうる分子・細胞を探索しています。また、シングルセル解析やクリニカルゲノムデータなど、近年アクセスすることが容易になってきた新しいデータを創薬へ活用する方法を模索しています。

やりがいやおもしろさは?

データを使って未知の生命現象を調べていくプロセスは、簡単ではありませんが、常に新鮮な驚きがあり、純粋に楽しいです。また、近年は創薬を効率よく推進するために、データを賢く活用することの重要性が高まっています。このような社会的意義の大きい研究領域で、より良い未来を作るために自分が何をすべきかを考えられることも、大きなモチベーションになっています。

職場環境の特徴や魅力は?

正しい準備をすれば、年次に関係なく早い段階からチャンスをもらえます。たとえばNCCとの共同研究では、入社して間もない頃から自分の研究アイデアの提案が採用され、挑戦の機会を得られました。また、最近はロシュ社への海外赴任も経験でき、自分の視野を広げることができました。また、多様な専門性を持つ研究者が揃っているので、気軽に異分野の話を聞けることも魅力です。

将来の目標は?

私が製薬企業へ入った理由は、自分の研究領域 (バイオインフォマティクス) が医療・ヘルスケアに貢献できるものへと成熟してきていると実感したからです。どのような形になるかはわかりませんが、その頃と変わらない想いを持ち続けて、自分の仕事を通して社会へ貢献したと言えるものを生み出したいです。

主な研究テーマ

  • ゲノミクス・プロテオミクス・バイオインフォマティクス技術を用いた創薬標的分子の探索・同定、作用機序解明とバイオマーカー探索
  • 原薬の物性プロファイリング、プロトタイプ製剤の設計およびDDS技術開発
  • 遺伝子改変マウスの樹立、新規発生工学技術の開発
  • 中分子を用いた新たな薬効作用機序の探求

基盤となる技術

  • 中分子ライブラリー構築技術
    薬になりやすい中分子の特徴を見出し、それに適合する化合物群を有機化学とバイオテクノロジーの力を使って実現することで、中分子の創薬を可能とする。
  • 経口吸収改善技術
    経口吸収性の悪い原薬でも、その物性のプロファイリングから的確な処方や製剤技術開発を行い、充分な吸収性を確保することで、薬の有効性と安全性を高めることが可能になる。
  • データサイエンス/データエンジニアリング技術
    社内で取得されるあらゆるデータを利用可能とする研究IT基盤の整備と種々のデータを統合した独自データベースの構築、さらに機械学習、深層学習、バイオインフォマティックスの先端解析技術の活用により、データを活用した世界最高水準の創薬が可能となる。

研究機器・設備・施設

  • 培養細胞を用いた化合物評価実験を支える細胞自動継代装置

一日で数十株の培養細胞の継代を実施するシステムで、実験者の手技レベルの違いよらず実験材料(細胞)を調製し再現性、信頼性の高いデータ創出する。