中外製薬

2 製薬技術本部

製剤研究
Pharmaceutical Technology Research

創薬から開発、そして医薬品の上市にわたって製剤や製品付加価値に関する技術研究を行い、患者さんのニーズに合った製剤を開発する

製剤研究では、製剤の開発から製品化、上市後の製品改良まで医薬品のライフサイクルを通して幅広く活動を行っています。

まず、創薬研究の中で医薬品物性評価の側面から開発分子の絞り込みに寄与し、選定された薬物分子物性の影響を考慮して製剤処方・製法を工夫することで、薬効成分の機能を発揮させつつ、疾患領域で求められる剤形や投与方法のニーズに応えていきます。そして、工場での設備や効率性に配慮した製造方法の設計及び国内外の製造サイトへの技術移管を行い、保管や輸送に耐えうる品質設計も行います。さらに、容器・デバイス・包装等で使用性を高め、市場ニーズを満たす製品を提供します。

このように、製剤に求められる多くの要素を一つの製品として形にし、付加価値を高めるところに製剤開発の面白さがあり、また自分たちの手で製品を開発し世界中の患者さんに届けることで、医療に貢献する喜びを実感できます。

製剤研究は、経口剤・注射剤・包装の各機能で構成されています。経口剤機能では、有効性・安全性・利便性に優れた製剤とするため、原薬特性を解析し、最適な添加剤の探索や造粒・打錠などの製法を通じて、安定性と生物学的利用能を高める研究などを行っています。注射剤機能では、安定性の高い製剤を開発するために、抗体蛋白の会合化などのメカニズムを解明した上で、これに基づいた安定化方法の研究を行っています。さらには、開発した製剤を患者さんや医療関係者に安全で利便性高く利用していただけるよう、人間工学に基づいた各種投与デバイスの開発も進めています。包装機能は、製剤安定性を確保するための包装材質研究、患者さんや医療関係者の使用性に優れた包装形態の設計、物理特性や機械特性の評価に加えて、環境対応も進めています。

Researcher's Voice

真貝 太規Shinkai-Hiroki

生命理工学院 生命理工学系 修了
2018年入社

医薬品開発の一端を担うやりがいを実感。
次の価値を見極め、実現できる研究者なりたい

現在の仕事・自身の役割は?

低・中分子医薬品の製剤の処方と製法の研究開発を担当しています。医薬品には有効成分の他に添加剤と呼ばれる成分が含まれています。この添加剤を用いて有効成分が効果を発揮し、患者さんにとって服用しやすい形に仕立てるのが製剤研究であり、前臨床段階から承認申請まで関わります。製剤研究は処方研究と製法研究があり、処方研究では有効成分と相性の良い添加剤を選び、製法研究では処方に基づいて製剤を製造するプロセスを作ります。

具体的にどのような研究を?

私は低・中分子化合物を中心とした経口製剤の処方研究に携わっています。近年の創薬研究で探索される候補化合物は効果に優れる一方、脂溶性が高く、水にほとんど溶解しません。効果に優れていても化合物が水に溶けなければ体内で吸収されませんので、経口製剤を開発する上で化合物の溶解性は最重要な要素です。そこで私は化合物の溶解性を改善できる製剤技術を研究し、十分な溶解性を付与できる技術の確立と実際の医薬品開発への適用を推進しています。

やりがいやおもしろさは?

私がやりがいを感じるのは医薬品開発が前進した瞬間です。医薬品開発は常に課題と隣り合わせで、たった一つの技術課題が何か月間もプロジェクトに影響することもあります。我々はこれら技術課題を研究し、解決策の提案を以てプロジェクトに貢献しますが、晴れて自分のアイデアが採用されれば医薬品開発の一端を担ったことになります。またボトルネックとなる技術課題が解消され、プロジェクトが前進するたびに患者さんに近づいていることを実感できます。

職場環境の特徴や魅力は?

私の周りは高度な専門性を有する研究員で溢れています。積極的に議論に応じてくれますし、日々の研究活動を通じて自身の成長を感じられます。また、多様なアイデアが尊重される環境であり、比較的自由に研究を推進できます。そして、フレックス制度や在宅勤務制度が導入されており、自らの裁量で勤務内容を調整できるのも魅力です。実験量に応じて毎日の業務を決められるため、自身の状況に合わせて働くことができています。

将来の目標は?

患者さんに優しい医薬品を開発して、手元に届けることです。そしてゆくゆくはリーダーとなって、中外製薬が次の将来に提供できる価値を実現することが目標です。研究員としては、病に苦しむ患者さんに一人でも多く治療の選択肢を提供できるよう、日々の研究に取り組んでいます。これまで中外製薬は独自の技術力によって、世界中へ多くの価値を提供してきました。将来は、「その次の価値」を見極め、実現できる人財を目指しています。

主な研究テーマ

  • 原薬形態のスクリーニング技術
  • 低中分子化合物の溶解性・吸収性改善研究
  • 迅速添加剤選択のためのハイスループットスクリーニング技術
  • 迅速全数モニタリングによる複数工程横断的な連続生産制御研究
  • 分子動力学等の分子シミュレーションを活用した分子内・分子間相互作用メカニズム解明
  • 抗体医薬の安定化、処方設計
  • ロボティクス等を活用した注射剤製造プロセス設計
  • 計算流体力学(コンピュータシミュレーション)による設備設計やスケールアップ技術への展開
  • 薬物送達技術(DDS)の実用化
  • 薬剤の物性や薬剤治療領域での使用性を考慮したデバイス設計
  • 人間工学の活用やユニバーサルデザインを考慮した包装設計・表示技術研究
  • 医薬品の誤投与防止や偽造医薬品防止に関する包装技術研究

基盤となる技術

  • 低中分子の物性評価技術
    物理化学的側面から最適な開発候補化合物を選定する技術やその開発化合物の塩や共結晶などの形態を選定するスクリーニング技術。
  • 粉体加工技術
    低・中分子化合物等を経口製剤(錠剤・顆粒剤)に仕上げるために必要な粉砕・造粒・乾燥・打錠・コーティング等の技術。添加剤の選択との組み合わせにより、保存安定性や生物学的利用能を制御する技術。
  • 抗体の物性評価・安定性予測技術
    抗体を医薬品として安定的に供給するために、物性を適切に評価し、安定性を予測する技術。
  • 工業化技術
    高品質な製剤を効率的かつ安定的に製造するために、薬剤の特性に合わせた最適な製造プロセスを設計する技術。

研究機器・設備・施設

  • Laboratory Automation System(LAS)

中外製薬が独自に開発した世界唯一のサンプル自動調製装置である。優れた封じ込め性能を有し、高活性化合物を含む試料の自動調製を可能とする。これにより、研究者への薬物暴露リスクが低減されるとともに、医薬品開発における研究効率性が飛躍的に向上した。