1. 中外製薬独自の革新的抗体技術
当社は1980年代にG-CSFとEPO、2つのバイオ医薬品の研究開発に取り組み、1990年頃に相次いで上市に成功しました。その頃から抗体医薬の研究を本格的に開始し、2005年に国産初の最初の抗体医薬品アクテムラ®(ヒト化抗IL-6受容体抗体)を上市しました。この頃には、抗体医薬は医薬品の成長ドライバーとして注目を集め、研究開発競争は激化。当社でもさらに独自の抗体医薬創製技術を開発し、アンメット・メディカル・ニーズを満たそうと考え、創り上げたのがSMART-Ig®やART-Ig®などに代表されるファーストインクラスやベストインクラスの医薬品を創製できる技術です。
①SMART-Ig:抗体は標的抗原と一度しか結合できないというこれまでの既成概念を打破し、抗体が繰り返し抗原と結合できる「リサイクリング抗体®」技術、抗原の細胞内での分解を促進する「スイーピング抗体®」技術のこと。抗体の投与量や投与頻度の低減をもたらすだけではなく、従来の抗体では標的にならなかった分子に対する抗体医薬の創製を可能にしました。
②ART-Ig/FAST-Ig®:抗体の左右の抗原結合部位で異なる抗原と結合できるバイスペシフィック抗体医薬を創製するために必要な技術。バイスペシフィック抗体は製造面で課題を抱えていましたが、この技術の誕生により、通常の抗体と同程度の生産効率での製造が可能になりました。本技術を適用して当社で創製したバイスペシフィック抗体「ヘムライブラ®」が、2017年にFDA(米国)から承認され、2018年には日本・欧州より承認を受けました。非対称型の遺伝子組換えバイスペシフィック抗体医薬としては世界初です。また、共通L鎖を用いる従来のART-Igを進化させ、非共通L鎖での二重特異性抗体製造手法としてFAST-Ig技術を確立し、新たな開発候補品に採用しています。
③Switch-Ig:病態組織において特異的に抗原と結合できる抗体を創製するための技術。抗体医薬の標的となる抗原は正常組織でもある程度発現していることがあり、抗体を投与した際に病態組織以外の正常な組織でも作用し、毒性が生じる事があります。本技術により、抗体の病態組織選択性を高めることができます。例えば、腫瘍微小環境で高濃度に存在するATP(アデノシン三リン酸)が存在する時に結合能が強くなる抗体では、腫瘍選択性を高めることができます。この技術を用いることでより安全性の高い治療用抗体を提供できることを期待しています。
リサイクリング抗体の特徴
通常のIgG抗体とバイスペシフィック抗体の違い
スイッチ抗体の特徴
関連文献
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リサイクリング抗体技術
Antibody recycling by engineered pH-dependent antigen binding improves the duration of antigen neutralization.
Nature Biotechnology, 28, 1203-7 (2010). -
スイーピング抗体技術
Engineered monoclonal antibody with novel antigen-sweeping in vivo.
PLoS One, 8, e63236 (2013). -
バイスペシフィック抗体技術
A bispecific antibody to factors IXa and X restores factor VIII hemostatic activity in a hemophilia A model.
Nature Medicine, 18,1570-4 (2012). -
スイッチ抗体技術
Antibody to CD137 activated by extracellular adenosine triphosphate is tumor selective and broadly effective in vivo without systemic immune activation
Cancer Discov. 2021 Jan;11(1):158-175.
(作成日:2021年8月)